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フリートーク > 2003年3月19日バックナンバー

喧嘩両成敗

 ご託並べたりできるほどの頭はないんだけど、とりあえずいまのうちに書いておきたかったんだ。いま書いてる最新話が間に合いそうにないから。
 二世で、お山の大将で、一方通行な大義名分をかざす、どっかの指導者によく似ているなぁと。


 結界に阻まれてなかなか先へ進むことができないアートハルク帝国軍のドラゴンフライを地上から見上げながら、集落の村長デニスは小さく舌打ちをした。最初の一撃で相当数の〈ハルピュイア〉たちをたたき落とすことができたことに満足はしていたのだが、思いもかけない彼らの時間稼ぎに、帝国軍が足止めを食らっていることに苛立ち始めていた。
 能なしの軍曹ごときが。〈ハルピュイア〉相手に術者のひとりもつけず──。
 デニスは前のほうで指揮を執るアートハルク帝国一個中隊の男を蔑むように見つめた。名誉欲にかられただけの、ただの凡人のくせに。デニスは密かに唾を吐き、嫌悪感を紛らわせた。
「村長! デニス!」
 集落の入り口から怒鳴りつける声に、デニスは神経質に振り返る。マハが飛び出してきたかと思うと、突然胸ぐらを掴まれ、その恰幅のいい身体によって地面に引き倒されそうになるのをやっとのことで堪える。
「外出は禁止されていたはずだ。ここは危険だから戻りなさい」
「危険? 危険なのはこっちではなく、〈ハルピュイア〉とサーシェスだろう!?」
 マハはそう叫んで手を振り上げるのだが、村長はそれを掴んでかわす。周りにいたアートハルクの兵士がそれに気付いて集まってきたので、村長は顎で彼らにマハを取り押さえるよう指示をした。
「騙して迎え撃つなんて、そんな汚いマネ、よくできたもんだね!」
 マハは両脇で兵士に腕を掴まれているのもかまわずに、吐き捨てるようにそう言った。
「これもあなたたち集落の人間を守るためだ」
「だからって、こんなわけの分からない武器だか兵器だかを持ち出してきて、交渉にやってきただけの彼らを虐殺するのが正しいってのかい? 笑わせるんじゃないよ!」
 マハは顎をしゃくって、前方のアートハルク兵たちが囲っている巨大な鉄の塊を差した。取っ手やツマミがたくさん並んだ平たいプレートが脇に備え付けられた、不格好な台形のシロモノだった。マハにはこの得体の知れない物体を、アートハルクの兵士たちがどう扱うのかは想像できなかったが、それがなにか恐ろしい惨劇を引き起こすものであろうことだけは理解できたようだった。
「では聞こう、やつらは我々に何をしてきた? 十年の長きに渡るこの戦いで、いったい何人の集落の男たちが命を落とした? 守るために戦うことを咎められるとは、たいへん不本意だ」
「あんたはサーシェスを見捨てたんだよ! 同じ、人間だろう!? 百歩譲ったって、あんたが仲間を見殺しにしたことだけは変わりゃしないんだ!」
「仲間? 仲間だって?」
 デニスは喉を鳴らして笑った。
「ロクランから光都へ護送されるはずだった、危険度五のイーシュ・ラミナの娘を、あなたは我々と同じ『人間』と呼ぶのか」
 マハの身体がぴくりと震え、その次の瞬間には固まっていた。
「知らなかっただろうな。あの娘の首にはまっていた首飾りのことも、あなたは何も知らなかった。それもそのはずだ、彼女はあなたには何も言わなかった。自分が術法犯罪を犯した人間であることなど、誰も言いたがるはずはないからな」
 衝撃の事実にたいそう驚き、それを反芻しながらうなだれるマハに、デニスの神経質そうな笑い声が降りかかる。
「危険度五もの超弩級逃亡者を抱え込んで、中央の厄介ごとに巻き込まれるのだけは勘弁願いたいものだ。できればこのまま彼らとともにきれいさっぱり消えてくれたほうがいいというのが、ほとんどの村の男たちの意見だ」
 デニスはそこで髪を掻き上げ、上空のドラゴンフライたちを見上げた。
「少々の犠牲を払ってでも守り抜く。それが指導者たる者の務めだ。マハ、あなたのような人には分かるはずもないだろうが」
 そう言ってデニスは、兵士たちに取り押さえられているマハの顔を覗き込んだ。
「……分かるわけがないだろう。なにが指導者だ。お山の大将が気取ってんじゃないよ。本当にあんたはオヤジさんに、前の村長に物言いまでそっくりになってきたね!」
 マハはそう悪態をつくと、すぐ目の前のデニスの顔に唾を吐きかける。デニスは動じることもなく無言で吐きかけられた唾を袖で拭うと、
「そうだったな。あなたは私の父の時代から、姉妹そろってそうやって刃向かい、禁忌を犯した」
 言われて、マハの顔が怒りに歪む。
「あなたの姉も、あなたも、掟を破って我が子と引き離された。だがそれを恨むのはお門違いというものだ」
 鼻を鳴らし、デニスはマハに背を向ける。そしてアートハルク帝国軍が持ってきた不格好な装置に手をかけると、周りのアートハルク兵にも聞こえるように、大袈裟な素振りで言った。
「まぁ見ているがいい。あなたのそのしがらみを、今日のこの日に断ち切って差し上げよう」

(『第23話:風の封印』より)