あとがき

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「神々の黄昏」をお読みいただき、誠にありがとうございます。また、「第三章:死せる夢見の大地」を読了いただきまして、ありがとうございました。
 大長編SFファンタジー「神々の黄昏」はいかがでしたでしょうか。ぜひお読みになったご感想やご意見をお送りください。だらしのない管理人ですが、それだけで更新と執筆の励みになります。



 この第三章を書き終えるのに、実に十年近くが費やされました。これまでの章はかなりのスピードで展開できていたのに、これだけの時間がかかってしまったのは、この十年で私の生活が大きく変わってしまったからでした。
 三章を書き始めてしばらくしてから転職し、その後も含めると確か転職は二回経験しました。その間に母を病気で亡くし、自身も病気でリタイヤせざるを得なくなり、実家に帰ってフリーランスとして開業し、その後、父も病気で亡くしてまたひとり暮らしに戻り、その後はある企業でフリーランサーとして常駐の仕事を受けることができましたが、開発案件を受け持つことになったために家と職場の間を往復するか飲んで帰るかの毎日が続き、まったく執筆する時間が取れなくなってしまったのです(まぁ、いまも週に5日とか平気で飲んで帰ってきちゃいますけど)。
 ひどい言い訳ばかりですが本当に激動の十年で、時間的余裕も精神的余裕もなくなると創作活動はまったくできなくなりますね。多少バタバタの毎日を送っていても、寝る間を惜しんで更新していた若かりし日々を思い出します。創作意欲がなくなったわけではありませんが、長らくスランプで物語を書き続ける能力が枯渇してしまったのだと思った私は、一時はサイトを閉鎖してしまおうとも思ったものです。
 幸いなことに、ある一定期間から急に筆が乗り出して、最後の数話はかなりのスピードで書き連ねることができましたが、本来予定したところまでまたしても到達できずに章を終えることになって残念です。また、文章力というべきか描写力もひどく衰えてしまっており、反省することしきりです。
 そんななか、たまにでもサイトを覗いてくださり、読んだよといったひと言メッセージを送ってくださったみなさま、本当にありがとうございました。完結するまでの間にサイトを閉鎖するようなことはもう二度と考えません。

 年を取ると若者が愚かしく見えるのは世の常らしいですが、私もそれなりに年を取って、主人公であるセテの行動が愚かすぎてたまらない。そんなのがこの三章を書き進められなくなった要因のひとつかもしれません。
 セテは、主人公でありながら自分の身の回りで起こっていることを客観視できず、常に周りに流されて巻き込まれる役回りになってしまいました。実際に、彼は世界のことを何も知らないし、世の中の立ち回り方もレイザークに比べれば遥かに幼い。仮に彼がすべてを知ったとしても、あの年齢でたいそうな立ち回りや考え方などできないし、彼に「じゃあお前、いまから世界を救ってきてよ」と言っても、できないでしょうね。世の中には22歳で社長になるような人もいますが、セテはそういうタイプにしたくなかったんです。

 セテを書いているときには自分のこれまでの立ち居振る舞いや仕事の仕方、考え方などを反映しているので、彼の傲慢なところも含めて自分のつもりで書いていますが、かといって彼を(自分を)スーパーマンにはしたくない(スーパーマンだとは思わない)。ある一定の年齢にならないと分別がつかない現実を、小説の中にまで持ち込んでしまうのは夢のない話かもしれませんが、セテは周りの大人たちに影響されてさまざまな考えを学び、成長していってほしいと願って作り出したキャラクターです。愚直に悩み、早く大物になりたいという願いと焦燥感に身を焼かれることは誰しもあることです。私がそうでした。そういうのをセテに代弁させたかったのかもしれません。
 ですから、物語が動いているのにまだセテをバカな立ち位置にしたまま話を書き進めないといけないのは、なかなかしんどかったです。そうでないと謎解きに効果的な演出ができないと考えるのは、私が書き手として未熟なせいもありますが、彼の代わりに説明をするレイザークやテオドラキスが説明くさいオッサンになってしまってしまうんですよねぇ……。
 本編の設定年齢上、38歳だったレイザークは終盤で39歳になりますが、その年齢をとうに越え、これ以上もたもた連載していたらラファエラの設定上の年齢だって超えてしまうかもしれませんので、早めに完結したいと思います。

 この三章は、さまざまな謎を解き明かす章にするつもりでした。加えて、さまざまな人の動き方も変わります。
 まず最初に、三章中盤まで分からなかったセテの父親の死因と17年前の事件の真実を明かしましたが、それと同時に、なぜセテがこれほどレオンハルトに憧れ、彼の萌え話(笑)をするのかも明らかになりました。セテとレオンハルトの、プロローグのずっと以前から続くある絆によって強い結びつきがあることが分かったのですが、サーシェスとも結んでいる強い絆が今後彼にどう影響していくか、次章以降でのひとつの見せ場になってくるのではないでしょうか。

 セテのトラウマの元凶については、セテというキャラクターを作るときに当初から予定していたものでした。男娼扱いされることにキレるのはさておき、いい男が自身の顔の造形について触れられることを、謙遜を通り越して生理的に嫌っていることは、周囲から見ればずいぶん不自然でしょう。当初は、セテが虐待家庭に育ち、育児放棄で天涯孤独みたいなことも考えていたのですが、重すぎるなと思って変更したんです。前述のとおりセテは重い過去を背負いすぎて影のあるヒーローのような存在にしたくなかったからでした。フライスに重い過去があるのでそれとかぶってしまいます。彼はふつうの家庭に育ち、元気がよく目標を高く持ったふつうの青年であるべきだと思ったんですね。ただ、そのふつうの家庭にもいろいろ問題はありますし、越えられない存在としてのレオンハルトというのは彼にとって絶対だったので、なにかそうした方面での傷みたいなものを考えていました。それが、父ダノルの存在でした。
 父は自分がなれない聖騎士であったということや、憧れのレオンハルトの、自分が絶対に知りえない部分を見ていることが、セテにとってはうらやましくねたましい。しかし、すでに亡くなってレオンハルトやレイザークの思い出となってしまった父の影を消すことはできない。セテが一生かけても絶対的に越えられない存在なんですよね。父が聖騎士であったことについてはこのあともセテの焦燥心を煽る最大のポイントとして物語に味付けをしていくでしょうし、また父ダノルがセテにしたことについて、セテが本当に克服できたとは言いがたいと思います。とくに、レオンハルトとの絆によって、セテはいやでも父のことを思い出すでしょう。そういったところも、次章以降で丁寧に書けるとよいですね。

 レオンハルトとダノルについては、拙作番外編「聖騎士の暁〜LOST DECADES〜」で少し触れていますが、彼らふたりとレイザークを入れたおっさん三人組については、機会があれば番外編でさらに掘り下げてみたいですね。仲良し聖騎士道中記みたいなもんでしょうか。大昔、ファイナルファンタジーXのスフィアで見られる、ブラスカ様、ジェクト、アーロンの三人旅が案外楽しそうだったので、ああいう雰囲気もいいなぁなんて思ったものですが、ファイナルファンタジーXって2001年なのね、ビックリだわ……。

 また、汎大陸戦争に至る話とセテたちのいる世界についての説明も、この章でどうしても書いておきたかったもののひとつです。
 もともとこの話は「SFファンタジー」と銘打って書き始めたものでした。小学校四年生くらいのときに『神々の黄昏』のおおもととなる話を思いついて、以来、ちょこちょこ設定を変えながら書き進めてきたものですが、もともとは松本零士だのに強い影響を受けた、ちょっと不思議なSFだったんですね。その後、高校生から大学生くらいになるとその当時に流行っていた漫画や映画などの影響を受け、超ファンタジー寄りに設定が変わります。当時はまだサーシェスの前身である少女が主人公の物語でしたが、その後、大学卒業後、社会人になってすぐくらいにセテを主人公にした現在の設定に落ち着きました。

 余談ですが、もともとセテは脇役であっけなく死んでしまうような存在だったのですが、サーシェスのような超能力を持つ少女を主人公にしていると、(たとえ彼女が記憶がないといえども)あまり世界の謎の核心に迫ることの驚きはないと思ったし、なにより、なにも知らない元気で強気な男性の剣士を主人公にすることは物語に動きが出ます。セテを主人公にしたのは間違いではなかったと自負しています。

 この世界は、非常にファンタジー的な要素で成り立っていますが、個人的には、魔法(超能力)や属性といったものにある程度、科学的に説明できる仕組みが欲しいと思っていたんです。なぜ呪文を詠唱しただけで術が発動するのか、火が出たり氷の刃が出たりするときにだってエネルギーは必要なのに(エネルギーの法則は絶対なのに)、なにもない空間からそれらが出てくるのはなぜか。術法を発動させる仕組みはトンでもな説明ですませていますが、そういうのも含めて、この話はSFをベースにしたファンタジーであるべきだと思って書いていました。
 遠い未来の世界で、きっと魔法は科学的に証明されているはずですし、レオーネが説明するあたりでの宇宙移民の話はこの世界の成り立ち、「神の黙示録」に連なる重要な「世界のはじまり」です。筆が乗りに乗ってしかたないくらいでした。それが書けたので、できはさておき、本望です。
 実はこの物語の連載をWebサイトで始めた当初、さまざまな方から「ファンタジーで現代風のカタカナ用語が出てくるのは違和感を覚える」というご意見をいただいたことがありましたが、私にとっては、現在の世界線の延長に彼らの世界があるので、英語圏のカタカナ用語がでてくるのは当然だったんですよね。かなり初期の頃から、小説のトップページに「Their past is our future, only a matter of time...」なるキーワードを掲げていたんですが、長い伏線ですみません。でも、二百年の間に言語が著しく変化しているということも書いてしまったので、最近は必要がない限りはなるべく英語のカタカナ用語を出すのは控えています。

 大昔の海外のホラー映画で、呪いを数学の公式で解くみたいなトンでもな話がありましたが、あれは実際の数学者が達成したと当時のパンフレットには書いてありましたし(呪いを再現したそうです。本当かどうか知らないけど)、現在は量子力学でさまざまな現象が解明されつつあります。一部、トンでもなことを解明しようというのでうさんくさく思っている方も多いかも知れませんが、私たちのずっとあとの世界でさまざまな謎が解明していくのは楽しみですし、それを想像してトンでもな仕組みを本編で登場させるのも、楽しいことだとは思いませんか?

 また、人も大きく動き、従来の登場人物の立ち位置が変わったり、新たな登場人物が出てくることが多かったのもこの章の特徴でしょうか。
 新たな登場人物として終盤、かなり気に入って気合いを入れて書いたのが、ジョーイの兄、ヴィンスです。気を付けないとレイザークとキャラがかぶってしまうのですが、豪快な海の男ってのを一度書いて見たかったのです。中世の海賊船をモチーフに、それこそ帽子まではかぶらせていませんが、海を荒らし回った荒くれ男たちを率いる、海賊船の船長をイメージしています。口は悪いけど弟思いの熱いお兄ちゃんですから、次章以降でも登場する機会があればよいですね。
 またテオドラキスとヨナスといったお子ちゃまキャラについても、初めての試みです。お子ちゃまキャラにはベゼルがいますが、彼女は一般人で、どちらかというと非戦闘員なので、彼らのような超常能力を持った子どもの外見をしたキャラクターというのは、書いていてともて楽しかったです。テオドラキスとも次章以降、再会できるのでしょうか。
 アトラスの物語については、次章以降でもう少しすったもんだがありそうです。彼の抱える過去についてはどこかで明かさないといけません。彼とセテとの勝負も、セテのずるのおかげであまりすっきりしたものではありませんでした。このふたりがどのように激突するのか、じっくり書いていければと思っています。

 フライスに言及するのを失念していました。
 第一章で大活躍したあと、さっぱり泣かず飛ばずの次期大僧正候補でしたが、第一章連載当時、どなたかに「なんでフライスはレオンハルトと同じ顔をしているんだろう。まさか兄弟とか? 偶然というわけはないしなあ」というコメントをいただいたことがあり、冷や冷やしたものですが、その長い伏線を本章で回収できたといったところですね。
 おおもとのフライスのキャラクターは、レオンハルトに瓜二つにするつもりはまったくなかったんです。レオンハルトとの対比として彼が語られるようになるのは、サーシェスの記憶の断片を紐解いていくのにとても重要なことだと思ったのでいまのような設定に落ち着かせたのですが、「偶然似ている」で押し通そうと思ったこともあったので、「これやったら怒られるだろうな」と思ったものです。
 その後の彼の足取りについては、次章以降できちんと書きますのでどうぞお楽しみに。

 次章以降の話の展開は、うっすらとはあるのですが、果たして次章で完結するのか、それともさらに章を重ねないといけないのかはまだ整理できていません。ナハーデイラの術法でどうやらどこかへ飛ばされてしまったらしいセテがなぜ伝説の聖騎士と再会できたのか、意識の戻らないサーシェスはどうなるのか、ガートルード率いるアートハルクの動きや、味方なのか敵なのかいまだ分からないハドリアヌスの動きはどうなるのか。もう少し整理しながら次章の案を練っていきたいと思います。
 それとは別に、このあと、番外編としてアジェンタス騎士団現役時代のセテとレトの日常生活を書いてみようと思っています。三章を書き始めるずいぶん前だったかと思いますが(確かまだ一社目にいた頃だったか)、横須賀米軍基地のフレンドシップデーに遊びに行ったことがあります。そのときは、ちょうど9.11の直後だったために警備がものすごく厳重だったのですが、こうした地域の人と基地のふれあいを騎士団領に置き換えて書いてみたいと思っていたのでした。しかし三章がまったく終わらないため、すっかり失念していたのです。
 昨年(2015年)の夏、友人たちと再びフレンドシップデーにいったとき、とても楽しかったのですが、そのときに、三章が終わったらまたこの題材で書いてみようかなと思い、だいたいの構成はできあがりました。
 短期間で集中連載できるようにしたいと思いますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。

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