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[つれづれコラム]

Webデザイナーは儲かるのか?

 これまで「魅力的な小説サイトをつくろう!」で、管理人樋渡ゆうぞーがうんちくたれているのを聞いて、「もしかしてWebデザインとかコーディングって儲かるんじゃなかろうか」なーんて、淡い幻想を抱いている人も多いんじゃなかろうか。
 ってな感じで、今回は本物の現場の、かなりしょっぱい話をしてみようと思います。
 結論から言って、Webのコーディングやデザインって儲かるのか、答えは限りなく「ノー」に近いイエスです。
 7〜8年くらい前、まだインターネットでホームページなるものを作って公開している人がとても少なかったころ、HTMLを書けるというのはある意味特権みたいな風潮はありました。もちろん、HTMLを書けるだけでなく、Perlなどが書ける人のほうがレイヤーは上のほうだったにしろ、HTMLが書けること自体が重宝された時代もあったんです。その後、AdobeのPage MillやSymantecのVisual Page、MacromediaのDreamWeaver、IBMのホームページ・ビルダー、さらにはMicrosoft FrontPageどころかWordでもHTML書き出しができるようになって、「ホームページ」を作ることが爆発的に一般に浸透していきます。
 まだこうしたソフトが出始めたころ、HTMLを書ける人はとても重宝され、私も仕事でページ制作をお願いするときには最高でページ単価5万円、高くて7万円から支払ったことがあります(もちろん、サイト単位での構築をまかせる場合はグロス契約になるので、単価はさがりますが)。
 その当時、まだNetscape Navigatorは3.0から4.0に以降したばかりで、ブラウザのシェアもNetscape Navigatorがダントツをほこっていた時期でしたから、Netscape Navigatorにしか対応しないLAYER要素だのをバリバリ使って、出始めたころのダイナミックHTMLでぐりぐりレイヤーを動かしていたりしたのですが、IEは残念ながら対応していないので、IEでアクセスすると代替ページが表示される、なんて仕組みも仕様に含まれていたり。いまとはまったく逆のことが行われていたりしたもんです。JavaScriptもスタイルシートも手書きでしたから、もちろん単価はあがります。
 ところが、いまではほとんどの機能がHTML作成ソフトで実現できるようになりました。
いまではプロでもイチから自分でJavaScriptを書くなんてことはほとんどしません(私も実際そうです)。
 そんな現在、ページ単価がいくらになってしまったかというと、私が請け負った仕事で最低の価格が、ページ単価5千円でした。10ページこなして5万円のギャランティだったんですよ! コーディングだけではなく画像作成もある程度必要だったため、交渉して単価7千円までに引き上げましたが、実際のところ、ふつうに企業でやっつけの仕事を引き受けると、いまはページ単価1万円もいかないのではと思います。あ、ちなみにこれはページデザインを行う人がまた別にいて、コーディングだけを依頼された場合です。デザイン・レイアウトから発注されると金額はあがりますが、だいたい込みで値切られてしまうのが知人同士の仕事のやりとりの悲しさですわ(笑)。
 もちろん、ものすごく名前の売れたデザイン事務所であれば話は別です。そういう事務所の場合は、コーディングだけではなくデザインから構築、ビジネススキームまでのすべてをグロスで請け負いますから、単価で仕事をすることはありません。
 少し前に「私、Webデザイナーになりたいんだけど、儲かります? 樋渡さん」なんてよく言われたもんですが、いまの私なら「絶対儲からない。大きな事務所に入らない限り、個人でWeb制作はほとんど小遣い稼ぎにしかならないよ」と言い返します。
 ではなぜ単価が低くなったのか。一概には言えませんが、やはり「HTMLなぞ誰でも書ける」という時代が到来してきてしまったからだと思います。
 私は仕事柄、ディレクションを担当しているので、誰か別のデザイナーなどにHTMLデザインを依頼することが多いのですが、これまで数多くのデザイナーに接してきて「この人こそWebデザイナーだ」と太鼓判を押せるのは数少ないもんです。一握りの人がすばらしい才能を持っているのですが、それ以外は、正直言ってしまえば「コーディングだけなら私のほうが上だわ」なんて思ってしまったり。いやなヤツだな、樋渡よ。
 私たちは仕事で、納品されたHTMLを現存しうるありとあらゆるWebブラウザで表示し、動作確認を行います。まずそのふるいにかけて落とされるのが、特定のブラウザで動作異常が見られること。例えばIE5.0と6.0では見られるけど、Netscape Communicatorの4.7では正常に表示されないなどの不具合が発見されることがままあります。「いまの市場はIEが97%を占めてるんだから、Netscape NavigatorやNetscape Communicatorなんて動作確認も必要ないんじゃないの?」なんていう人も中にはいるでしょうが、企業ページを作る上では、それは間違いです。少なくとも、3%のユーザーであっても優良顧客たりえるわけです。それらの優良顧客のブラウザに正常に表示されないようなページは、私たちの仕事では必要とされていません。ですから、この時点で「ああ、このデザイナーは自宅でコーディングをしたあと、ちゃんと動作確認をしていないな」ということでブラックリスト行きになります。
 次にこのフィルターを通ったあと、私たちはHTMLファイルのソース自体をテキストエディタで開いて中身をきちんと確認します。ソースが汚いのは、私たち企業のWeb担当者にとっては致命的。この程度のスキルしか持っていないのねとユーザーにバカにされるか否かという、非常にいやな部分でもあります。ですが、これをやらないと自分たちの企業のWebページのクオリティ管理ができていないということで(特にうちはIT企業なので)誰につっこまれても文句を言えません。
 私たちはデザイナーに発注する際、非常に細かな規定を記した仕様書を渡します。横幅はいくつで画像の大きさはどれくらいまで、さらにはどういうインデントを使ってどんなタグを使い、どんなコメント分を挿入するかまで、はっきり言えば小うるさいほどの仕様がそこに書かれています。その仕様に沿っていないということは、納品に値しないということです。
 よくあるのがDreamWeaverでそのままHTML化して納品しただろうなんてファイル。DreamWeaverは私も日常的に使っているのでよく知っているのですが、TABLEなどを作成したときに、不必要なソースのネストを行います。タブであったり半角スペースであったりと設定によりけりですが、これをそのまま納品してくるんですね。DreamWeaverのソースは他のソフトに比べてまだきれいなほうとはいえ、見る人が見れば「ああ、Weaverでそのまま作ってきたのね」なんて冷たいコメントが返ってきます。おまけに、Weaverは特定の文字や半角スペースが入ると、そこでソース内で改行する癖があるので、見た目にはすごく汚いです。少なくとも、気付かれないように整形し、きちんとコメント分などを入れて見られる形にしてほしいもんです。
 ところが、こうした納品で満足している人が多いのは事実。実際に納品されてきたHTMLを、私たちWeb担当者がひいこら言いながら整形したりするその時間と手間は、彼らのギャランティからさっぴかれることはないのかと、常日頃思います。
 先日もこうしたことがありまして、私の旧知の友人経由で仕事を発注したデザイナーからあがってきたHTMLファイルを見てびっくり。渡した仕様書はまったく無視して、しかもDreamWeaverで作ったと思われるような、半角スペースでのソースのネスト。同僚に修正してもらいことなきを得たのですが、その後、友人からは「あのデザイナーさん、しっかりしてちゃんとできる人だからよかったでしょ」なんて言われて、思わずアワアワアワと言葉を失ってしまいました。プロで仕事をしている人でさえ、ソースの美しさとか仕上がりとかあまり気にしないんですよね。HTMLデザイナーは報われません。
 さて、かなりしょっぱい、グチに近い話ばかりしてきたと思いますが、私が思う真のWebデザイナーの条件には、次の項目が必須です。
 まず、クライアントがどんなものを要求しているか、その要求と必須項目、機能を照らし合わせてデザイン、レイアウトをこなせるかどうか、次に誰が見ても一発で分かる、きれいなソースを書いているか、この最低限のふたつさえ守られていれば問題はありません。もちろん、その前に私たちのような発注する側が、デザイナーにどんなものを作ってもらいたいかの要求を具体化してブレストできなければいけません。Webデザインに限らず、人になにかをやってもらうときには、お互いの意見が一致しないことにははじまらないのです。
 さて、こうしてみると、ピンでやっているWebデザイナーはとても不利です。なぜなら、デザインとレイアウト、プログラミング、階層構造、ソースの美しさすべてをひとりで実現しなければならないからです。大がかりなサイト構築はデザイン事務所すべてをあげて取りかかってもらうようグロス契約で発注するため、ピンで仕事を発注することはほとんどありません。なぜならこうした事務所は、デザイン・レイアウト、コーディング、プログラミング、ディレクションその他諸々をすべて分業でこなしているからです。ピンの人に頼むのは、言葉は悪いですがやっつけの、ほんの数ページ程度(キャンペーン的なページと思っていただければいいでしょう)。
 となると、やはりピンでWebデザインをやって独立しようってのはかなり難しいです。私も本業の片手間に前の会社のコネクションでぽろぽろ仕事をいただいていますが、これはやはりCD-ROMに収録する、期間限定のキャンペーンページを作る、なんて場合にのみいただける話です。
 ではこれからWebデザイナーとして独立しようという人に、まったく夢のない話をしているかというとそうではありません。まずひとつは経験をつむこと。なんでもそうですが、人間長くやっていればその道のプロフェッショナルになりえます。また、ある程度大きな著名なデザイン事務所に入ること。デザインの知識がなくても、否応なしに仕事をこなさなければならないし、端で先輩デザイナーの仕事を見ていればいい勉強になります。また、経験がある人なら人脈を作ること。人脈があれば、どこからか必ず仕事の話が舞い込んできます。実際私なんかの場合は、前職と前職のときに築き上げた人脈で、さまざまな細かい仕事がよく入ってきました。
 ローマは一日にして成らず。やっぱりどんな職業にも修行と経験は必要なんですね。


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